精神科医のブログ 臨床・生活・教育・経済

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フランシス・ベーコンの絵画

 フランシス・ベーコンの絵画は非常にグロテスクに見えるのですが、どうも私の心を捕えて離さないのです。

 全体として苦痛に満ちた感じで、ベーコンのインタビューでは”神経に直接働きかける”というようなことが書かれてあったように思います。

 精神科は話をよく聞くというイメージだと思いますが、傾聴・共感という言葉が良い意味でつかわれます。転移という言葉が精神分析であるのですが、それは、患者さんがこれまで体験してきた人間関係の中での感情が、治療者である私に向けられることを言います。

 私自身の解釈では、転移というのは患者の体験に、深い共感、あるいは聞いていながら自分も深い体験をするということのように思います。治療的にはそれをさらに観察する目を持つのが専門家ということだと思いますが、フランシス・ベーコンの絵画を見ていて思うのは、そこに深い共体験が生まれているのではないかということです。

 フランシス・ベーコンは様々な苦悩を持っていたと思いますが、それは人間である以上誰しもが抱えている者だと思います。苦悩という言葉は、読み手によって色々なイメージとなるでしょうが、フランシス・ベーコンの苦悩は彼の絵画だったのではないかと思います。それを見て、神経的に自分の苦悩に響くのかなと思いました。それで、なぜさらに深く落ち込まないかというと、その響きの中に彼とともにあるように感じるからかもしれません。

 またフランシス・ベーコンの絵画は命が単なる肉の塊や物のように描かれているように思います。私はそれが生きる苦悩からの解放を表現しているように思われて、そこも虚無的ではありますが、ある意味の癒しのように感じられています。

 強烈なネガティビストは、強烈なポジティビストにも思われるというのは私の持論です。

 フランシス・ベーコンの本は、作品を好きな方だけではなくて、美術系の方にも、それ以外の方にも色々なインスピレーションを与えてくれると思います。下記の本は非常にお勧めです。

 

肉への慈悲―フランシス・ベイコン・インタヴュー

肉への慈悲―フランシス・ベイコン・インタヴュー

 

 もう一冊インタビューがありますが、そちらはあまり深くないように思いました。インタビュアーによって随分と引き出されるものがちがいますね。